僕とカレンチャンの話をさせてください
人は裏切られることより裏切ることの方が辛い。その時の僕はそう痛感していた。そんな思いを胸に、嫌味なほどに真っ青な青空が広がる香港にいた。
カレンチャン
カレンチャン、という馬がいる。2009年にJRA中央競馬会に颯爽と現れた短距離牝馬だ。画像を見て頂けたらすぐにもで分かるだろうが、かなりカワイイ馬だ。なんだよ、競馬の話かよ、わかんねーよ、と思う人もいるかもしれないが、我慢して聞いて欲しい。これは競馬の話ではない。愛の物語だ。
カレンチャンとの出会いは、東京競馬場だった。その日の東京競馬場はレースの開催がなく、ただただ広い場外馬券場となっていた。誰もいないパドックにポツンと座る。ビックリするくらい空が青かったのを覚えている。
次のレースはどの馬を買うかと競馬新聞を眺めていると、屈強そうな名前の馬に混じって「カレンチャン」という異様にカワイイ名前の馬名が目に飛び込んできた。戦績を見てみると悪くはない。そのレースでも一番人気のようだった。
僕は迷わず、カレンチャンに持っていた全財産を賭けた。たぶん何かを感じたのだろう。こんなにも大胆に賭けたのは初めてのことで、レース中は足が震えた。カレンチャンは見事に人気とその思いに応えてくれて1着となり、賭けた金は4倍くらいになって帰ってきた。その瞬間、僕はカレンチャンの虜となった。
ここに輝かしいカレンチャンの戦績を記す。
2011/02/19 京都 山城S(1600万下) 1着
2011/04/09 阪神 サンスポ杯阪神牝馬S(GII) 1着
2011/07/03 函館 函館スプリントS(GIII) 1着
2011/08/28 札幌 キーンランドC(GIII) 1着
勝ち星を重ねるカレンチャンは本当にかわいく強く、僕もカレンチャンが出走するたびに全財産を賭け、その度に増えて帰ってきていた。そしてついに運命の日はやってきた。
2011年10月2日 中山競馬場 スプリンターズステークス(GI)
競馬が分からない人にはピンとこないかもしれないが、ついにカレンチャンが最高グレードの大レースに出走することになった。もう出走できるだけでも凄いというレースだ。
もちろん、この大舞台でもカレンチャンに全財産をぶちこもうと決意した。それどころか応援してきた娘の晴れ舞台だ、サラ金から借りてきてでも大量の金をぶち込むべき、それが僕とカレンチャンの間に生まれた絆だ、などと思ったのだけど、事態はそう単純なものではなかった。
シンガポールの怪物、ロケットマン、来日。
衝撃的ニュースが舞い込んできた。このスプリンターズステークスはさすが最高グレードのレースだけあって、国際レースという位置付けがなされている。つまり、日本国内だけではなく、世界から有力な馬を招待して出走させている。別にたいした馬はこないだろうとタカをくくっていたのだけど、蓋を開けてみるととんでもない怪物が来てしまった。
ロケットマン(シンガポール)
ロケットマン。シンガポールの短距離馬。シンガポール国内の短距離GIを総なめにし、国際レースでも活躍を続ける。21戦17勝負けた4回も全部2着という化け物っぷり(当時)。ふかわりょうではない。
こいつは化け物だって思いましたね。僕はカレンチャンは競馬界の佐々木希だとおもっているんですけど、このロケットマンはいうなれば競馬界のレディーガガです。もし、レディーガガと佐々木希が殴り合いをしたらどうなるか。たぶん、レディーガガが勝つと思います。
僕はあっさりとロケットマンに乗り換えた。あれだけ信頼し合い、培ってきた僕とカレンチャンの絆をあっさりと破り捨て、僕はロケットマンにぶち込んだ。だって金が欲しいんだもん。さすがにロケットマンに全財産はやりすぎなので、香港から来たラッキーナインというこれまた強い馬に残った金もぶちこんだ。
そこからの僕はひどいものだった。
「ロケットマン強すぎる」
「カレンチャンはまだこの大舞台で勝てる器じゃない」
「カレンチャンには申し訳ないが、ここはロケットマンだよ」
「そもそもカレンチャンはそんなに強くない。相手に恵まれただけ」
などと、カレンチャンを貶める始末。もう目も当てられない。その日、パドックで見たカレンチャンは心なしか悲しそうな目をしていた。
そして、ついにGI、スプリンターズステークスが始まる。僕はこのレースを始発で競馬場まで行き、第四コーナーの最前列という特等席で観戦していた。ビービーガルダンという馬がレース前にゲートを飛び出し、騎手を振り落として3周くらい走って競争除外になるというパフォーマンスで会場の熱気は最高潮に達し、いよいよレースが始まった。
1着 カレンチャン
2着 パドトロワ
3着 エーシンヴァーゴウ
4着 ロケットマン
5着 ラッキーナイン
ロケットマンは馬群に沈んだ。ラッキーナインも馬群に沈んだ。それと同時に 僕の全財産もどっかに沈んだ。それ自体は構わないのだけど、問題は勝ったのがカレンチャンだった、という点だ。
池添騎手とカレンチャン
これにはさすがに凹んだ。本当に、ちょっと30分くらいその場から動けなくなるくらいに落ち込んだ。いつものようにカレンチャンに全財産賭けてたらすごいことになってたとかそんなのを悔やんでいるわけではありません。問題は、なんでこんなにも頑張ったカレンチャンを信じてあげられなかったのか、それに尽きるのです。
僕はカレンチャンのことを裏切った。僕がカレンチャンを信じ、持っている全財産を全てを君に賭けると誓い、カレンチャンもそれを信じて頑張っているはずだった。しかし、僕はそんな彼女を裏切ってロケットマンとかいう、良く分からないふかわりょうみたいな、文字通りどこの馬の骨だよみたいな馬に思いっきりぶっこんでしまったのだ。
カレンチャンはどんな気持ちだったろう。悲しかったんじゃないだろうか。それでもカレンチャンは頑張り、ついにGIレースを制覇したのだ。けれども、僕はそんな彼女を信じることができず、裏切ったのだ。あれほど裏切られることより裏切ることのほうが辛くて苦しいってわかっていたはずなのに、僕はカレンチャンを裏切ったのだ。
裏切りという十字架は、辛く重く僕にのしかかるだろう。もしかしたら一生許されないかもしれない。けれども、僕はこの十字架を背負い、それでもカレンチャンを応援していきたい。もうあんな思いは御免だ。僕はずっとずっと裏切ることなくカレンチャンを応援し続ける。それが世界の果てであろうと応援に行こう。いくら金がなかろうと全財産を賭けて見せよう。もう僕は彼女を裏切らない。ハズレ馬券舞い散る中山競馬場で、僕はそう決意した。
それから数ヶ月、衝撃的なニュースが舞い込んできた。
カレンチャンが香港で開催される国際スプリントG1レースに招待されたのだ。カレンチャンはスプリンターズステークスであのロケットマンに勝った馬ということで世界での評価も高まり、スプリンターズステークスに招待されたロケットマンやラッキーナインのように、世界の強豪として招待されたのだ。
もうあんな想いはごめんだ、俺はずっとカレンチャンを応援していく、どこだって駆けつけるさ! そう宣言した後の1発目のレースが香港だとは思わなかった。ということで、
羽田空港国際線ターミナル
羽田空港国際線ターミナル
キャセイパシフィック航空
香港
香港
香港
香港
そんなわけで、なんか訳も分からないうちに香港まで来てしまった。
香港の街並みはなかなか迫力があり、建っているビルの威圧感というかなんというか、もちろん香港はアジアでも有数の都市ですから、高層ビルとかすごい建ってるんですけど、その高層ビルの迫力がなんか日本のそれとは違うんです。
香港の中心部にはブランドショップが立ち並び、特にお母さんとショッピング旅行に来てるとか、OL同士で来ているとか、ババア共の集団が狂ったように買い物しているとか、とにかく至る場所で日本人を見ることができます。モンゴルに行った時は日本人などカケラも見れなかったことを考えるとかなり心強いものです。
香港
さて、香港の街並みは面白いもので、ガイドブックなどを見てみますと、こう、色々と専門的な商店の集団に区分けされているみたいなんです。東京でも秋葉原は電気街、オタク街、みたいな感じで専門的な店たちが並んでいるんですけど、それと同じで香港も結構色々な専門ストリートがあるみたいなんです。
金魚街
これは金魚街と呼ばれるところです。思いっきりに剥き出しでビニールに入れられた金魚というか魚を軒先に並べた店が20件ばかり連なりますが、全般的にはペットショップ密集区域みたいな様相です。ペット屋に挟まれるように平気で定食屋みたいな店があったりするのはお国柄でしょうか。
鳥街
ここは鳥ばかりを売ってる地区です。本当に鳥に関連した商品ばかりを売っています。
他にも様々な専門的な区域が存在し、もちろん電気街とかも存在しますし、服飾の街とか花の街とか様々なものがあります。中には名前だけで実態は普通の住宅街、みたいな場所もあるのですが、ブラブラ歩くだけでもかなり楽しいものです。
そんなこんなで香港の街をぶらつき、いよいよ本日宿泊するべきホテルに行くことになるんですけど、ホテルの場所とかよく分かってないまま行くことになっちゃいましてね、結構迷いつつ、何かの○○街っていうところにあるはずだっていう情報を頼りに向かったんです。
もしかしたら電気街だろうか、いやいや、安いホテルにしたから怪しげな場所にあるに違いない。酒街とかそういう場所かもしれない。香港にあるかどうか知らないけど風俗街とかだったらいいな!などと、ホテルの立つ専門街に思いを馳せながら到着すると、
油街
よくわからない。しかも油を売ってる様子が微塵もないし、なんか雰囲気がスラムみたいな怪しげな感じ。「oil street」って横文字で書いてあるのがかなりイライラする。しかも、煌びやかな香港にあって凄い町外れで裏通り、早くも嫌な予感がしますが、野宿するわけにはいかないのでホテルにインします。
ホテルのロビーに入ると、中国人だか韓国人だか知りませんが、ものすごい大勢の団体客がワーワーギャーギャーやっていてなかなかチェックインできなかったのですが、なんとか無事チェックイン。落ち着いて部屋に入ります。
さすが住宅事情が劣悪な香港であり、さらには格安のホテルということもあってか部屋はめちゃくちゃ狭い。それでも急いで日本からやってきた僕にとっては落ち着ける場所です。ベッドに腰掛け一息つきます。
カレンチャンを応援するため、カレンチャンの世界舞台デビューを応援するため、取るも取りあえず遠く香港までやってきてしまった。出発前はパスポートが見当たらなかったり、パスポートの期限がギリギリだったりで本当に気が動転して焦ってしまった。どれくらい気が動転していたかというと、荷造りの段階であまりに焦るあまり
バッグばかりを4つも持ってきてしまう始末。バッグインバッグ。着替えも持って来ずにバッグばかり持ってきてどうするつもりなのか。
香港て何か漠然と暖かいイメージがあったのですけど、この季節の香港はしっかり寒い。ちょっと我慢できるレベルの寒さじゃないので、部屋についているエアコンのツマミをひねり、暖房に設定する。このツマミというかスイッチが、ひねった瞬間に全然手応えがなくて嫌な予感がしたんですけど、予想通りというか何というか、冷たい空気が凄い勢いで排出されてくる体たらく。
ちょっと待てば暖かい空気が出てくるのでは?と淡い期待を寄せたりもしたけれど、2時間ぐらい待っても冷風しか出てこない。フロントに文句の一つでも言ってやろうと思ったんですけど、言葉が通じないんでやめておきました。
周りの部屋全部が韓国人の団体客で、部屋を行き来して夜中まで大宴会。キムチ食ってるのかキムチの匂いが充満。風呂に入ると火災報知器がけたたましく鳴る。そして死ぬほど寒い。とまあ、ボロホテルぶりをいかんなく発揮していたんですけど、一番我慢ならなかったのが、電源が落ちる、というところでした。
どうも寝てる時に、部屋の電源が全て落ちてしまったみたいで、こちらとしてもカメラとか充電していたんですが、朝起きたら全然充電できていなかった。テレビもつかないわ、冷蔵庫に入れておいたコーラはぬるくなってるわで散々な状態。
しかしながら、文句ばかり言ってもはじまりません。今日は香港をくまなく観光して、明日はついにカレンチャンの応援に行くわけで、まあ、帰ってくる頃には部屋の電源も復旧しているだろう、と香港の街へと飛び出しました。
香港の地下鉄は異様に安い。だいたい日本の1/10くらいの感覚だと思ってくれていい。日本だと200円くらい取られそうなくらいの距離乗ったとしても20円くらいの出費でいけてしまう。よほどの貧乏人でない限り地下鉄に乗れないということはない。
僕は以前、パチンコで負けすぎて帰りの電車にも乗れず、3時間くらいの距離を歩いて帰るというセルフ帰宅難民をやってしまったのだけど、この安さだとそんな心配もなさそうだ。
さて、観光に繰り出したのはいいものの、僕はモンゴルで決死のサバイバルとかそういった海外旅行しかしたことがなく、こういった思いっきり観光地って場所で旅行を満喫したことがない。どうしていいのか分からずに所在無くウロウロしていても時間の無駄なので、なんか麺でも食ってやろうとその辺のラーメン屋みたいな小汚い店舗へ。
具もなんにもない麺なのだけど、これがやたらめったら美味い。美味いのはいいんだけど、僕が食ってる横にレジがあって、そこに太ってる時のオセロ中島みたいなババアが鎮座しておられて、センスで扇ぎながらずっと僕を睨みつけてるんで、気が気じゃない感じで落ち着いて食べられなかった。
これはあくまでも僕の個人的な意見なのだけど、香港という街は買い物大好きな女性とか向けの観光地な気がする。ガイドブックを見ても、そういったブランドショップやら何やらの紹介が多い。歴史的な建造物とかそういったものが少なく、ショッピングに死ぬほど興味がない僕は本当にどうしていいのか分からない。
ブラブラしているとこんなポスターが。どうも日本を題材にしたドラマっぽいのだけど、すごい色々と日本を誤解されているようなきがする。「焼かれた記憶を消したい」とか凄い深刻なことが日本語で書いてありますしね。
ここは、香港の秋葉原みたいな場所らしい。よく分からないけど、別に電気街というわけではなく、サブカルチャーの発信地とかそんな位置付けみたいだ。とにかく行く場所がないのでここに来てみたのだけど、まあ、それっぽい現地の若者は多い。怪しげな店も多く、なんとなく雰囲気が秋葉原の裏通りあたりに似てると言えなくもない。
さて、そんなこんなで暇を潰すこともでき、日もどっぷりと落ちたわけなのですが、なんでも香港ってのは夜景が綺麗らしいのでそれを見に行きます。
このように美しい夜景が広がっているわけなんですが、なんでもビルの所有者たちと香港観光局が協力しているらしく、毎日夜8時になると夜景イベントが開催されるらしいんです。
時間になると音楽が流れ初めて、それに合わせてビルのライトアップが変化します。安室奈美恵がでてくるときみたいなビームがガンガンビルから放出され、なかなか圧巻な感じ。この素敵な夜景を見ようと、日本から来たカップルが山盛りで人だかりを作ってました。たぶん帰ってセックスするんでしょうね。「ホンッ!コンッ!」とか喘ぐんでしょうね。
そんなこんなでフェリーに乗ったり、訳分からない通路を歩いたりしていると、何やら福山雅治みたいなカメラを抱えた人や、すごい天体望遠鏡を抱えた人が多数、夜の空を観察しています。なんでも今日は月食の日らしく、どうも皆がそれに夢中の様子。
僕も月食を見ようとしばらく月を眺めていたのですが、あまりの寒さに諦めてスラム街のホテルへと帰りました。まあ、ホテルに帰っても暖房効かないんで寒いことには変わりないんですけど。
しかも、部屋に帰るとまんま朝の状態で、全く電源が直ってなくて部屋の電気すらつかない状態、さすがにこれは酷いっていうんで1階まで降りていってフロントまで行き、従業員さんに英語で文句を言うのですが、あまりに僕の英語が酷くて全く通じない。最終的には「電気がないから石器時代」みたいな絵を書いてなんとか理解してもらえて、部屋の電気を直してもらいました。
なんとか電気も復旧し落ち着いて明日のカレンチャンに備えることができるぜと思ったのですが、一難去ってまた一難。またもや問題が発生しました。
ウンコが流れない。
別にウンコがでかすぎて流ないとかそんなわけでもないんですけど、部屋のトイレ、ウンコを流すためのレバーみたいなのがどこにも見当たらないんです。
ふいー、ウンコしたぜって出したばかりのウンコをほれぼれと見つめて、さあ、流すかって感じでレバーを探すのだけど見当たらない。タンク周りとかツルっとしててレバーらしきものが存在しない。
なるほどね、これはあれですな、最近流行りの横の方にボタンがあって、そこで流すタイプのやつですなって横の壁を見るんですけど、ツルっとした壁があるだけで何も存在しない。もうパニックになっちゃいましてね、そういう文化なのかもしれないと大便ブースの外に出たりして流すレバーを探したんですけど、それでもやっぱり見当たらない。
便器の中に誇らしげに鎮座する大便様を眺めてどうしたものかと途方に暮れちゃいましてね、このまま放置して逃げてやろうかと考えたんですけど、ここは日本ではなく香港です、当然ながら文化が違うわけで、もしかしたらウンコをしたまま放置ってのが香港では死刑レベルの重罪かもしれないじゃないですか。
あのですね、ウンコ流さず死刑とか末代までの恥ですよ。むしろ僕が末代ですよ。とにかく、死刑になったらかなわんってことで、とりあえずトイレットペーパーをファサッとウンコの上にかぶせて隠して、フロントまで走ります。さっきと同じ従業員だったんですけど、なんとか焦りながらウンコが流れないことを英語で説明します。
なんか「流れる」っていう単語が分からなかったので、「ウンコ、サラサラ」みたいな感じのことを言っていた気がします。それって下痢ですからね。でまあ、死刑になってたまるか、と、なんとか身振り手振り、決死の英語で伝えると、従業員が満面の笑みを見せます。
「OK」
みたいな感じで理解してくれた様子。おお、伝わった。よかったウンコが流れる。それにしても言葉なんて飾りだな。本気でコミュニケーション取ればどんなに異国であろうと英語が出来なかろうと、伝わるものだ。コミュニケーションって大切だよ。ホント、伝わってよかった、と安心していると何やら紙を手渡されました。
なに、この紙にウンコの流し方とか書いてるの?と思って開いてみると、そこにはホテルの無線LANにスマホとかを接続するときのIDとpassが書いてありました。全然伝わってない。なんでウンコ流ないって話が無線LANに繋ぎたいって話になるんだ。
もうええわってことでウンコを放置して、せっかくなのでスマホを無線LANに繋いでネットを楽しみ、部屋に帰って寒い寒いと震えながら眠りにつきました。ちなみに、朝起きたらまた部屋の電源が全部落ちていた。なんだよこのホテル。
寒さに震えながら目が覚める。本当に寒い。普通、金払ってホテルに泊まっているのだから外界よりも格段に暖かく快適に過ごせる部屋でないとおかしい。けれども、窓を開けてみると、部屋の中は外と全く同じ気温だった。おまけにまたもや電源がぶっ飛んでいて電気の類は一切使えない。酷いホテルすぎて笑えてくる。
気を取り直して、今日はついにカレンチャンがここ香港で海外デビューをする日だ。気合を入れて応援しなくてはならない。寒さに震えながら万全の体制を整えてホテルを後にする。
さて、カレンチャンが出場するキャセイパシフィック香港スプリント(GI)だが、ここ香港には競馬場は二つあるのだけど、お目当てのレースが開催されるのは比較的郊外にあるシャティン競馬場。事前に行き方は調べておいたのだけど、地下鉄でなかなか乗り換えが多い様子。
香港の地下鉄はさほど複雑ではないのだけど、並行して走る路線が多く、乗り換えが多い印象だ。ただし、乗換駅みたいなものが設定されているっぽく、その駅では目の前のホームで乗り換えられるように作ってあるみたいだ。
ホテルのあったスラム街から3回くらい乗り換えをしているうちにいつの間にか地下を走っていた鉄道が地上を走るようにあっており、ついにシャティン競馬場へと到着した。
シャティン競馬場
外国人が競馬場に入る場合は別の入口からパスポートを見せて入る必要がある。入場料も、香港の人は100円ぐらいで入場できるのだけど、外国人は10倍くらい取られたような気がする。
入場するとペインティングされた馬の置物がお出迎え。ちょっと香港の人のセンスが理解できない。
シャティン競馬場。芝はかなり綺麗。向こうには窓の間隔がぎゅうぎゅうすぎて怖い高層ビルも見える。
外国人は一般の人とは区分けされた場所で見ることができ、少しゆったりと余裕を持って観戦することができるようになっている。
いよいよレースが始まる。スタンドには大勢の観客が。みんなが同じ帽子をかぶっているのは、入口のことろでスポンサーのキャセイパシフィック航空が帽子を無料配布していたから。もらったものはかぶらずにはいられない、もちろん僕もかぶった。
パドック
みんな同じ帽子。
同じ帽子
金持ちはいい帽子。
そんなこんなでいよいよカレンチャンが登場する香港スプリントがやってきます。
香港の競馬新聞。漢字ばかりで意味がわからないけど、カレンチャンは「真幾怜」と書くっぽい。騎手は池添さん。
ここにもカレンチャン。
日本でレースがある場合、カレンチャンは結構人気があるんで、レース前のパドックなんか近づくことすらできないんですけど、ここ香港ではそこまで有名ではありませんから、普通にパドック最前線でカレンチャンを見ることが可能。
カレンチャン
カレンチャン、おれ、香港まで来たぞ。約束を守ったからな。
そしていよいよ馬券を買うわけなのですが、もちろん、持っていた全財産をカレンチャンにぶっこみまます。
ちなみにこれは日本の馬券ですが、香港の馬券はペラペラの紙というかレシートみたいな馬券です。
14番カレンチャンにぶっこんだ馬券の束です。
さあ、ついのここ香港まで応援に来たぞ。そして全財産をぶっこんだぞ。本気の全財産だ。こちらではカレンチャンの評価が低いのか、当たった時の倍率はかなり良い。当たったらたぶん日本の税関で申告が必要なくらいの現金になるはず。よし、全ての舞台は整った、いくぜカレンチャン!
ついに僕の、そしてカレンチャンの運命を賭けたレースが始まったのです。
1着 LUCKY NINE(IRE)
2着 ENTRAPMENT(AUS)
3着 JOY AND FUN(NZ)
4着 LITTLE BRIDGE (NZ)
5着 CURREN CHAN (JPN)
全財産、失った。
どうすんだよ、こんな異国で全財産失ってどうすんだよ。そのへんの競馬場とかパチンコで負けて歩いて帰るのとは訳が違うんだぞ。あと、全然関係ないけど、またロケットマンが馬群に沈んでた。
けれどもね、カレンチャンは頑張ったと思うよ。初海外で、こんな遠い国に来て、しかもあれだけカレンチャン包囲網が完成していてあんなに囲まれた中、5着は大健闘だと思いますよ。それに、香港まで来て最後までカレンチャンのことを信じることができてよかったよ。
とにかく、20円程度だから貧乏人でも乗れる、と言い切った地下鉄に乗る金もなくなりました。
ホテルに到着する頃にはすっかり夜になり、月食も終わったので月は欠けていませんでしたが、僕の心の中の何かは欠けたような気がしました。ついでに、ホテルの部屋は、電源も暖房も、最終的にはシーツすら欠けてました。なんだよこのホテル。
あれから10年以上の月日が経ち、ちらほらとカレンチャン産駒の競走馬にその時の全財産を賭ける日々が続いていましたが、そんな中で衝撃的なニュースが飛び込んできました。
実在の名馬が登場することで一大ブームを巻き起こしたスマホゲーム「ウマ娘」についにカレンチャンが実装されるというのです。
僕は絶対にスマホゲームに課金しない、特にガチャには課金しないと決めているのですが、カレンチャンとなれば話は別です。裏切るわけにはいかない。
「君はいつまでたっても僕を試すようなことをするんだな」
カレンチャン(ウマ娘プリティーダービー)
無料でやれるガチャでは当然のごとく出なかったので、4000円課金して引き当てた。引き当てたときは声を上げてしまった。
姿を変えてスマホの中に蘇ったカレンチャン。僕とカレンチャンの物語はまだまだ続きそうだ。
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